※本記事は2017年12月4日に大阪体育大学DASHサイトに掲載されたものを転載したものです。
10月11日(水)、「第1回コーチングスキル講習会」が大体大にて開催されました。本学では、来年度のスポーツ局開設とあわせて、本学運動クラブの指導者や関係スタッフ間の情報共有および啓発を目的とした「指導者協議会」の設置も計画。それに先立ち、今年度は「コーチングスキル講習会」として、指導者に対する情報交換会、学内研修会を全3回予定しており、今回はその1回目となります。
担当したのは、DASHプロジェクトの研究に携わる藤原敏行准教授で「体操競技の実践とバイオニクス?実践現場におけるデータ測定と活用への挑戦?」として、現在行われている研究、活動の報告となりました。 採点競技である体操競技でも、今後は客観的な評価データももっと活用される可能性があると期待する、体操部?藤原敏行准教授。体操競技現場と現パラダイムにおけるスポーツ科学研究のギャップと課題、そして今後の可能性について熱く語りました。
体操は軍の身体訓練として来日!??日本政府の施策として学校体育に導入
現代の体操競技の源流を遡ると、ドイツの「トゥルネン」という活動にあるようです。1800年代前半、ナポレオン統治下にあったドイツで、ヤーンという人物がベルリン郊外のハーゼンハイデ広場にさまざまなアスレチック器具を設置すると、青年たちは遊びながら熱心に体を鍛えはじめます。次第に、技を競い合う競技会が開催されるようになり、1800年代前半?中盤に活発化していきました。
1811年、ハーゼンハイデに器具が作られてから70年後となる1881年、ヨーロッパ体操連盟が設立され、これが今の国際体操連盟の前身となります。 ドイツをはじめとするヨーロッパでは「器械運動=体操」を軍兵のトレーニングに積極的に採用するようになり、日本や中国には近代軍の訓練運動の1つとして体操が伝わりました。日本政府は強国のために必要だと判断し、体操は軍だけではなく、それ以前の学校体育に取り入れられることになります。
「体操ニッポン」?体操競技は日本の“お家芸”
軍事目的で入ってきた体操ですが、競技としても徐々に普及し、1930年には全日本体操連盟が設立されました。ヨーロッパから遅れること約50年。日本は紛れもなく体操後進国でした。 全日本体操連盟の設立から2年後の1932年、ロサンゼルスオリンピックにて国際大会に初参戦を果たしますが、結果は参加5ヶ国中最下位。それでも日本体操競技は体操先進国に追いつけ追い越せの勢いで修練し、時代は30年後に訪れます。1960年のローマオリンピックを皮切りに、日本体操競技は世界大会負け無しの10連勝。”体操ニッポン”が世界の頂点に君臨し「不滅の金字塔」と謳われるまで発展していきました。
しかしその後、強い、強い、日本体操競技は、失速していくことになります。1979年の世界選手権で団体優勝を逃し、1980年モスクワオリンピックはボイコット。そこから団体での優勝が遠ざかり、その底は1996年アトランタオリンピック。日本代表チームが大切にしてきた団体戦で10位という情けない成績にまで落ち込みます。お家芸だったはずの体操ニッポンの姿。この苦しい時代に終止符を打ち、神々しく光を照らしてくれたのが、冨田、鹿島、米田、塚原らであり、ジュニア時代から期待されていた選手たちの活躍による2004年アテネオリンピックでの団体金メダルでした。今も多くの国民の心に刻まれている映像は、冨田洋之選手による完璧な鉄棒演技の着地シーンではないでしょうか。当時のオリンピック公式ソングであったゆずの『栄光の架け橋』に準えた実況は、国民の涙を誘いました。
体操競技は採点競技。?しかし、国際的な「規則集」完成は競技成立よりずっと後
体操競技は審判員がルールに則って採点し、演技を評価する採点競技です。そのため、採点のためのルールが統一されていなければ、審判員の主観的な評価に偏りが生まれることは避けられません。実際、1948年のロンドンオリンピックで採点上の大問題が起こりました。それまでは採点する審判のための国際的な統一規則がなかったのです。各国で世界大会が行われてきた上、体操競技は第1回近代オリンピックからすでに50年近く採用されていた競技種目であったにも関わらず、国際的な統一規則がなかったことには驚きです。
この時の問題をきっかけにして、1949年に初めて国際体操連盟公認の規則集が作成されました。その後「採点規則集」はより公平、公正に演技を評価できるように、幾度も改訂をされていきます。 しかし、2004年のアテネオリンピックでさえ、日本が団体金メダル獲得で盛り上がっていた一方で、審判員の採点のミスや、観衆の印象と実際の得点とのギャップなどで、採点方法に関する問題は大きな波紋を呼びました。そして国際体操連盟は、この問題に対し大きな改革に踏み切り、ついに10点満点のルールを廃止しました。
「Dスコア」「Eスコア」から成る現行の採点規則
現在、国際体操連盟から出される規則集では、演技内容の価値「Dスコア」と、実施の出来映え「Eスコア」を別々に採点するように規定されています。Difficultyの頭文字DをとったDスコアとは、演技の難度を中心に演技の価値を得点化したものです。Dスコアは加点方式です。他方、Executionの頭文字EをとったEスコアは、演技の実施の出来映えを得点化したもので、減点方式で採点されます。そして、DスコアとEスコアの合計点が最終的な得点となります。ちなみにDスコアに関しては、コーチは審判に対して問い合わせができますが、出来映えを競うEスコアに関して審判に掛け合うことは一切認められていません。
ではEスコアとはどのように採点されるのか──。これは、姿勢欠点や技術欠点に関する減点項目が定められており、たとえば、伸ばされているべき身体部分が伸びていないなどは減点対象になります。その減点は0.1なのか0.3なのか、あるいは0.5なのか、審判の裁量によるところも大きくなります。
他にも、技の理想像に対しての技術的な欠点は減点の対象となります。各種目の共通する一般的な減点項目に加えて、種目ごとにも特有の減点項目が細かく規定されています。興味深いのは、規定された様々な減点項目に加えて、「other esthetic errors」や「other technical errors」(その他の芸術的欠点、その他の技術的欠点)という減点項目が、規則集には記載されているということです。つまり、規則集に具体的に明記された減点項目以外でも、審判員が“主観的”に「欠点がある」と判断することで減点を実行できると解釈できます。これがルール上認められているのです。
藤原准教授が研究に取り組む、体操競技×バイオメカニクス
スポーツバイオメカニクスは、力学、解剖学、生理学などの基礎学問の知見を土台として、人の運動の仕組みをより良く理解しようとするもので、主観的な感覚とは違った観点からパフォーマンスを評価しようとします。そこでは、普遍的な法則や客観的な数値データに基づいて、評価することが多くなります。人の運動をバイオメカニクス的に理解することは、より安全で効果的な技術やトレーニングを検討する上で、有益となる可能性があります。
藤原先生はこれまで、特にあん馬の旋回運動を中心に研究を進めてきており、例えば、その回転のメカニズム、上肢への負荷、伝統的な練習方法の客観的評価、熟練度の比較、実施条件の比較、質に関する力学的評価、理想像の検討など、さまざまな分析をバイオメカニクスの手法を用いて行ってきました。
藤原先生が言うには、これらの研究成果があん馬運動の技術理解や指導に役立っていることは間違いないが、このような研究の活動自体はどこか「現場指導の外側」で行ってきたという感は否めないということ。それでは、体操競技の現場指導の内側とは何でしょう。
藤原先生たちは現場の指導者として日々体育館に足を運び、選手の技の出来栄え、質、その技術や動感、練習方法や練習の文脈(過程)などを観察しています。また、選手個人としての動きだけでなく、集団としての動きにも目を配ります。いずれにしても、全力で練習に励む生きた選手、グループの状況を良く見て、話を聞き、その時々の状況を即時に評価、判断した上で、適時に適切なフィードバックや、フィードフォワードを行うことに挑戦しています。
つまり、現場での指導では、時事刻々と変化する状況に対して、常に適切な対応を模索しながら実践し、実践しながら最適値を模索しなければなりません。この現場のペースに対して、研究活動のペースは追いつきません。これまでの慣習的な研究手法では、データ測定や分析に多くの労力と時間、(実験)空間を要することが多く、そのような日常的な現場の中で研究活動を行うことが難しい現実があるのです。
さらに、研究結果を積極的に受け入れてくれるのは、バイオメカニクスの研究者仲間や学会であり、現場の指導者や選手にはその土壌が肥えていないということもありました。採点競技の代表的種目である体操競技は、距離や高さ、時間といった物理的数値を測定して評価されるのではありません。パフォーマンスの質的なものを、ルールに基づいて量的な得点として表すことで評価されます。たとえ物理的な計測値が同じ高さであったとしても、より高く見えるように表現するというのは、評価に関わります。
また、運動選手は常に主観的感覚の中で身体の動きを制御、調整していることから、動きの「感じ」というものを非常に大切にします。このような選手にとっての感覚の重要性は、体操に限らず、他の種目でも同様であると思います。 しかし、その「感じ」の表に現れる運動のパフォーマンス評価も、体操競技では選手や指導者、そして審判の主観的な感覚に依存することが多くなります。よって、選手や指導者の「感じ」「感覚」から離れたところで、数値データを示されてもその有用性が理解しにくいのです。研究手法的な課題に加えて、このような現場の状況があることから、結果的にこれまではバイオメカニクスの研究活動を現場指導の内側に統合することができずにいたということです。
現場で使えるもの!? 簡便さの重要性
体操競技のトレーニングで良く用いられている客観的フィードバックは、圧倒的に映像ベースのものです。やはり人は、見ることで動きのイメージを捉えやすいものです。主観的な動きの感じを大切にする体操競技においても、映像フィードバックは重宝されます。写真、ビデオもそうですが、アテネオリンピック頃から普及し始めた映像遅延再生機能装置などは、現在でも広く用いられています。これはビデオで撮影している映像を一定時間遅らせてディスプレイに再生し続けるという装置です。ビデオとの違いは、録画をしないで済むこと。機器さえセットしておけば、撮影のための操作や人は必要なく、ずっと撮影されているというのが大きな利点です。
さらに、撮影と(遅延)再生が常に同時進行しているため、次の撮影のために誰かが再生している時間を待ったり、逆に誰かを撮影している間は再生を待ったりということがありません。つまり、現場の活動のペースを維持しながら、映像フィードバックを返せるという利点があります。
従来の映像遅延再生装置は、映像が録画されていないことから、スロー再生や繰り返し再生ができないといった欠点もありましたが、近年では、iPadの動画遅延再生アプリを用いることで、従来の映像遅延再生装置の欠点を大幅に改善できるようになりました。持ち運びや取り扱いの簡便さに加え、画面のスワイプにより遅延時間を変更できることで、遅延装置のメリットを活かしたまま、繰り返し再生もできる優れものです。現在、本学の体操体育館では13台のiPadを活用し、常にフル活動しています。
実際、iPadのカメラで撮影した映像は、フィードバック情報としては単なる映像でしかなく、音声もなく映像の質も一般的なビデオカメラに劣ります。それでもその映像情報の取得方法と使い勝手という面の便利さから、現場での利用状況には格段の違いが生まれました。この点から、現場で活用されるためには情報の価値はさることながら、その情報を得られるタイミング、簡便さ、コストが重要であることがわかりました。
理論と実践の統合からハイパフォーマンスへと挑戦する、現在進行中のプロジェクト
藤原研究室では、競技実践とバイオメカニクス研究の壁を打開し、現場で測定しやすく、現場で即時的に利用しやすいデータの取得と、その実戦的活用を目指しています。バイオメカニクスを現場でもっと活用し、その結果としてもっとバイオメカニクスの研究を深め、さらに現場に還元できないか。まず、iPadの映像遅延再生アプリはすでに現場で使われるのに十分な簡便さを持っていたことから、その情報の価値をさらに高めることができないかと考えました。
例えば、複数視点からの同期映像です。これは3次元動作分析というバイオメカニクス的な考え方と関連しますが、見る角度によって動きは違って見えるので、複数カメラからの映像を無線で飛ばし、画面分割して合成された映像が、iPadの遅延再生アプリと同じ使い勝手で見ることができないかということです。
また、映像には通常映らない情報、例えば重心位置や力といった情報が、映像の中に合成されるともっと考察を深めることができます。しかしこれらのアイデアはまだ技術的に難しく、実用段階とはいきません。 現在進行中のプロジェクトとして、バイオメカニクスの研究に用いられる力測定の技術をつり輪における力技のトレーニング評価に応用したものがあります。つり輪の力静止技というのはとても難しく、習得に長い年月がかかります。当然、習得前のトレーニング段階では自分だけの筋力で静止することができないので、補助(幇助)者が練習者の身体の一部を支えて、練習をするということが一般的に行われます。どこでも一般的に行われている練習方法ではありますが、そのトレーニング評価は通常、選手や補助(幇助)者の主観的な感覚に頼らざるを得ません。そこで、つり輪のケーブルに荷重センサーを埋め込み、ケーブル張力を測定することで、選手が自分で支えている割合と補助者が支えている割合を客観的に評価できるようにしました。つり輪の力測定自体はバイオメカニクスの研究としては特別珍しいことではありませんが、大事なポイントが2つあります。1つは映像に同期された力データのリアルタイムフィードバックおよび録画データの即時フィードバックが可能ということです。情報を得られるタイミングは大事です。
もう1つのポイントは、これらのデータ測定、活用が荷重センサーのアンプと無線で接続されたタブレットPC1台で、特別なセッティングなしに日常的に可能ということです。この簡便さと使い勝手の良さが現場での活用に重要になります。このシステムによって、選手はその力静止技の習得に向けてトレーニングを行う際、現在はどれほど補助に頼っているのかといった評価をリアルタイムで、または直後に映像とともに確認することができ、トレーニング効果の評価にも客観的数値データを用いることができるようになりました。
またあん馬では、パフォーマンス評価に重要となる身体水平面回転の雄大性について、客観的に自動評価するシステムを開発し、競技トレーニングに活用しようと取り組んでいます。日常的に用いられている競技用あん馬の頭上に、キネクトという深度センサーを持つカメラを設置し、そのデータを用いて、頭頂部とつま先の位置情報を自動で取得することに成功しました。これまでの先行研究ですでに、頭頂部とつま先の水平面距離(HTD: Head-Toe-Distance)が、雄大性評価の1つ指標として有効であることが示されています。その客観的指標が、選手の練習を邪魔することなく、日常的にすぐに測定、評価できるということです。バイオメカニクス的研究データを得るためには、複数台のカメラをはじめとする大掛かりなセッティングと測定準備、そしてデータ処理が必要なことが多い中、このシステムのおかげで、データ測定とその活用が日常的な競技実践現場で即時的に可能になりました。実践していく中で機器の性能上の限界や、プログラム開発における課題は当然見つかりますが、一つずつ解決しながら、今年度にはさらなる発展を目指しています。
機械が採点する!? 演技の評価と客観性
これまで本学におけるバイオメカニクスを取り入れた取り組みを紹介してきましたが、実はそれと深く関連することが日本体操協会より発表されました。3Dレーザーセンサーやデータ処理技術など最新のテクノロジーを持つ富士通と協会がタッグを組み、演技を立体的かつ高精度に解析することで、採点補助に活用するということです。日本体操協会の専務理事だった渡邊守成氏が、今年の1月に国際体操連盟の第9代会長に就任したことで拍車がかかり、このシステムは2020年の東京オリンピックでの導入を目指すと明言されました。このニュースを取り上げたある情報番組では、内村航平選手、白井健三選手のコメントを紹介。内村選手は「『この技は認定しませんよ』というのがでてくるはず。そうなるとたぶん世界の体操の技術はあがる」、白井選手は「動きが数値となってすぐに分かれば、自分の感覚をデータとして残しておくことができる。映像とあわせればかなり便利になる」といずれも機械判定を前向きに捉えていました。
一方で、採点競技で評価されるべき運動の質というものは、機械や物理的な数値で測れるものではないという考えもあります。技を行う際には実際の高さはもちろん、いかに高く見せるかという表現も体操競技では重要です。また、たとえ機械による採点を一部導入しても、熟練性や芸術性という要素は評価しきれないと予想されることから、人の審判員は不可欠だという意見も、今のところ多くの関係者が同意するところであると考えられます。
しかし、数値では評価できないとされるような要素も、絶対的に不可能というのではなく、単にその要素を評価するための測定項目がわかっていない、つまり何を測れば妥当な評価ができるのかがわかっていないだけ、ということも考えられないでしょうか。あるいは、妥当な測定項目はわかっているが、現在の科学技術では競技トレーニングや試合運営に現実的に沿うような形で導入できる測定システムがないということも考えられます。つまり、採点競技で審判や熟練者の人たちが見て、感じ評価しているものも、機械などでそれらを測定すること自体がそもそも絶対的に不可能というのではなく、現在はそれができないという考えで良いのではないでしょうか。
実は、今年度のヨーロッパ選手権では「スマートリング」と呼ばれる力センサーが組み込まれたつり輪がすでに競技で試験的に導入されたようです。客観的に測定された力データを使って、静止技の静止時間の判定に役立てようというもので、この話をドイツの研究仲間から聞いた時には、類似したシステムの活用を進めていたことからも衝撃的でした。実用化にはまだ課題もあるようですが、客観的に測定できるものは測定して利用しようという本学における取り組みも、体操競技界全体の方向性と同一線上にあると思われます。
研究材料の宝庫!? 科学研究と体操競技
体操競技の研究といえば、やはり金子明友氏が有名です。マイネル運動学を日本に広めて発展させられた方でもありますが、特に体操競技の研究に関わるご功績は突出しています。 運動者の主観を大事にするマイネル運動学と、運動を客観的に捉えるバイオメカニクスを対照的に捉えるような議論は珍しくありませんが、大事なことは両者の優れた点を活かしながら、運動に関する理解を深めることであると思います。金子明友氏は、日本におけるマイネル運動学の第一人者であっただけでなく、日本体操協会の科学研究調査部初代部長として様々な科学的研究を推進され、今日まで続く『研究部報』発刊の先頭に立たれていたというのを知った時には正直驚きました。 さらに、金子明友氏はご自身が体操競技の選手、指導者として輝かしい実績をお持ちの実践者であるのですから、その偉大さにはただただ敬意を表するのみであります。 しかし、競技実践と科学研究実践の調和というのは、それほど容易いものではないようです。『日本体操協会60年史』には、『研究部の活動は、率直な表現をするならば、縁の下の力持ち的な活動であったように思われる。今後においても研究部はそれでいいと思っているが、反省点が一つある。それは研究成果が現場のコーチ?選手に反映されず、若干の隔たりがあることである。』と、研究サイドと実践サイドの微妙な関係が記されています。
また、『幻のスポーツ王国東ドイツ体操の秘密』という書籍には、『東ドイツ体操から学ぶもの?日本復活への提言』というタイトルのもと、こう記されています。『技の現場と学術研究組織は、たがいに密接な関係でありながら、これまで体操の世界では、相互の調和のとれた関係はきわめて少ないと言えよう。現場は現場の生きた世界の中で築き上げた経験による財産を砦として頼らず、研究者は現場への研究成果の還元よりもむしろ研究論文の内容そのものに力を入れる。その結果は、両者が互いの殻に閉じこもって、相容れない状況を作り出すことになる。FKS(体育スポーツ研究所)での技のクリニック実験はコンピューターやスポーツ医学などの最新の科学技術を駆使しつつ、同時に現場の主観的?経験的な生きた財産としての感覚や直感を大切にすることで、両者の意義深い調和が果たされている』。
先日、中国のナショナルヘッドコーチを30年以上に渡って務められ、輝かしい指導実績をお持ちのHuang Yubin氏とお話できる機会がありました。印象的であったのは、西欧諸国ではなく、中国の実践者が、しかもそのトップが、体操競技における科学研究の必要性を強く訴えられていたことです。難易度の高い技術が数多く開発される体操競技は、それだけ危険性を孕むことは言うまでもありません。より安全で効率よくトレーニングをするためにも、体操競技界は科学の力を取り入れるべきだということ、そしてスポーツ科学界としても、体操競技というのは研究材料の宝庫であると考えています。
藤原敏行准教授のプロフィールは?こちら
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