テニスの大坂なおみ選手が警官の黒人男性銃撃事件に抗議して出場中の大会を一時棄権しました。スポーツ選手の人種差別問題や政治問題への関わり方について、梅垣明美?体育学部教授(スポーツ倫理学)に聞きました。
Q 大坂選手の棄権表明について
大坂選手の行動に賛意を示す報道が目につきますが、私は、大会の運営側のWTA(女子テニス協会)などが翌日の試合を延期し、大坂選手と話し合って出場をお願いした対応に注目します。大会の日程変更は全米オープンテニスの開幕を控えて多数の関係者に影響を与えますが、一個人の選手の意思を真摯に受け止めました。
米国社会全体が人種差別に加担しているわけではありません。米国では白人も大多数が民主的な社会を望み、アファーマティブ?アクション(マイノリティの積極登用制度)などの様々な仕組みで差別を乗り越え平等な社会を形成する努力をしています。WTAなどの対応には、米社会のそんな姿勢がうかがわれ、そこにもっと光が当たってほしいと考えます。
Q スポーツ選手の抗議行動について
大坂選手は「私はアスリートである前に、1人の黒人の女性です」と発言しました。スポーツ選手が人種差別に反対の意思を示すことは当然認めるべきです。ただ、方法が重要で、競技会場で意思表示をする場合は、その差別がスポーツの場面で生じた問題かどうかを判断する必要があります。今回はテニスとは関係のない問題であり、棄権ではなく別の方法での発信を考えても良かったと思います。スポーツ選手の行動は子どもへの影響が大きく、「主義主張があれば競技を棄権してもいい」と思わせてはいけないと考えます。
Q 五輪憲章50条について
選手が五輪の競技会場などで政治的、宗教的、人種的な宣伝活動をすることを禁じる五輪憲章50条について修正の必要性が指摘され、報道によると、国際オリンピック委員会(IOC)の選手委員会が来年3月までに最終提言をまとめる方針ですが、私は反対で、現在の政治的な中立を堅持するべきだという立場です。五輪は世界平和や国際親善をうたい、多様な宗教、政治思想を持った人々がスポーツ文化を楽しみ、競うイベントです。差別は糾弾されるべきですが、一つの問題を認めてしまうと、国の利害や政治活動も入ってしまいます。
Q 人種間の融和につながるスポーツの力について
スポーツには対立している人種や国同士を融和させる力があります。2019年のラグビーW杯で優勝した南アフリカはラグビーを通して黒人差別に立ち向かってきました。授業で取り上げている映画「タイタンズを忘れない」(2000年、米国)は白人と黒人のアメリカンフットボールの混成チームが次第に一つにまとまり、地域の差別意識もなくなっていく実話です。
2018年平昌冬季五輪スピードスケート女子500?での小平奈緒選手と李相花選手の抱擁は冷え込んだ日韓間の政治関係を超えて大きな感動を呼びました。イチロー選手の米大リーグでの活躍は米国社会での日本人の理解に大きく貢献しました。スポーツ選手の地道な活動は政治よりも国や人種間の融和にとって大きな力になることがあります。
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